中国の大学全国統一入学試験「高考(ガオカオ)」が6月7日から行われました。今年の全国の受験生は1291万人、去年より98万人増加し、過去最高の受験者数となりました。日本よりも学歴重視傾向の強い中国の高校生にとって、大学入試は一生を左右すると言っても過言ではなく、家族をはじめ社会全体をも巻き込んだ大イベントとなります。7日の試験の最初の科目は「言語(国語)」で、文章の理解力や作文能力が問われました。出題される作文テーマ(一部)から、その年の状況や求められる中国の世相を知ることができます。

テーマ:他人の明かりを吹き消しても自分が更に明るくなることはない。他人の道を塞いでも自分が更に遠くへ行くことはない。一輪だけ咲いても春は来ない、たくさんの花がそろって春が満ちる。

3月の国際会議で習近平主席が述べた言葉からの出題であり、欧米諸国に対して中国独自路線の外交政策を強調した発言でした。中国の国際的な立ち位置を、中国共産党の立場にそった回答が求められる課題のようです。

テーマ:良い物語は、より良い意思表示や意思疎通に役立ち、心を動かし知恵を啓発する。良い物語は、人の運命を変えたり、民族の姿を表現できたりもする。

中国古典の『隆平集』、『韓非子』からの出題があり、それを引き継いだ形で「物語の力」を主題とした課題です。中国古典より正確な「歴史観」、「民族観」、「国家観」を学び取り、愛国感情と民族の自信を高めるように導く意図があるようです。

テーマ:人類は、技術の発展により時間を制御できるようになったが、またそれによって時間の下僕にもなった。

「人と技術と時間」を主題とした課題であり、受験生の理論的、形象的、創造的な思考能力を高め、問題を発見し、焦点を定め論証を展開していく力を求めるテーマです。前述のテーマとは異なり、模範解答がすぐに思いつかず、受験生の好奇心・想像力・探求心を刺激するテーマで、青少年の科学的資質の向上を重要視され、このような問題でその能力を求めているようです。

テーマ:本試験の問題文にある「静かに邪魔されない」という思考は、現代の青少年には珍しくない。学習・生活していく中で自分の空間でリラックス・まったりしたり、成長したりしたいと考える。

「物語の力」と同じく、試験の本文で「静かに邪魔されない」ためにイヤホンを使い続け、突発性難聴を発症した件を記した問題であり、それを踏まえた「青少年の自己空間」を主題とした課題です。受験生が「自己空間」を出発点に自分の生活や成長に対する考え方、親や教師への思いなどを求めているようです。

「言語(国語)」は、「歴史」、「道徳」といった面から政治的イデオロギーを反映しやすい科目ですが、中国教育部の発表でも「国語」の試験について「党の二十大精神を貫き、習近平による新時代中国独自の社会主義思想の指導を堅持し、試験内容を深化させるべき」と言及しています。
6月下旬には、受験生の得点数が通知され、その点数によって志望大学に合格できるか決まります。受験生にとつては、「国語」の作文科目は必須であり、テーマは得点を左右する要素であるため、受験戦争を勝ち抜く中国ならではのテクニックが必要となっているのかもしれません。

海報新聞「2023年大学全国統一試験語学全国試験問題分析」を参照・整理