寧波で最も活気にあふれた天一広場からほど近いところに、鼓楼があります。これは、中国の城郭都市に建てられた太鼓を設置するための建物で、太鼓は時刻や緊急事態を知らせるために鳴らされました。寧波の鼓楼は、唐の長慶元年(821年)、明州子城の南門に建てられた最も歴史のある建物です。とはいっても、何度も破壊と再建をくり返し、現存する建物は、1855年に再建されたものです。

鼓楼

鼓楼の門をくぐると、広い商業エリアが広がっています。ここは小吃店(軽食堂)をはじめ、お菓子、雑貨、切り絵、絵画、刺繍、彫刻、楽器などを売る大小さまざまな店舗が並んでいる鼓楼歩行街です。寧波物産店は 2階建てで、果物や銘菓、それに寧海の黒豚の肉や海産物なども販売していました。メイン通りだけでなく、いくつもの路地があり、かなり広いエリアです。同僚の案内で、商業エリアの一角にある茶葉の専門店や、肉や魚、野菜が並ぶ巨大なセンター市場へも出かけました。

何度か訪れるうちに、近くにある天一広場とはだいぶ雰囲気が違うことに気づきました。若い世代に人気のあるブランド品などは見当たらず、浅草の仲見世通りのような庶民的な雰囲気を感じるのです。同僚によれば、鼓楼のエリアは、寧波を代表する伝統的な食や文化が集まるところだそうです。商店だけでなく、絵画や楽器演奏などの教室があり、文化活動の集散地でもあるようです。だから老寧波人(寧波に生まれ寧波で育った人びと)が懐かしさや親しみを感じ、好んで出かけるということなのです。そういえば親しくなった茶器専門店の女性店主は老寧波人で、よく訪ねてくる客人もまた老寧波人でした。2人の会話は、普通話(北京語)ではなく、寧波話(寧波語)でした。鼓楼地区の周辺には、宋、元、明代に使用された倉庫跡(永豊庫跡地)や城壁遺跡、少し離れたところには、中国で最も古い図書館である天一閣などが点在しています。街中にある遺跡や歴史的な建造物は、寧波の人びとの日常と同居していて、不思議なくらい違和感がありません。

洗練されたおしゃれなショッピングエリアの天一広場近くに存在する、古きよき老寧波の風景。油賛子(伝統的なお菓子)や切り絵、玩具などがならび、老寧波人が散策する通りや路地。鼓楼は、寧波の歴史や文化の重みを感じるこのエリアの象徴なのです。

 
鼓楼エリア
寄稿:横井香織