2021年頃から、NFT(非代替性トークン)が世界的に注目を集めています。NFTとは、コピー防止措置やナンバリングにより「代替できないことが証明されたデジタルデータ」のことで、中国でもNFT市場拡大の流れが起きていました。しかし、2021年9月、中国政府は仮想通貨の決済や取引情報の提供等、仮想通貨に関連するサービスを全面的に禁止すると発表しましたため、中国では規制と共存しつつ、他の国とは違う独自のNFT市場が形成されています。

現地の報道によると、中国国内におけるNFTマーケットプレイス(NFT取引所)は、2022年2月の時点では100あまりでしたが、6月にはその数が500を突破し、たった4か月で5倍にまで増加しました。これは、アリババやテンセント等中国の巨大テック企業が本格的な参入をしてきたのが要因です。しかし、NFTへの関心が高まる一方で、中国では仮想通貨が禁止されているため、海外で一般的に言われる「NFTアート」に対して、中国の「数字収蔵(デジタルコレクション)」と呼ばれる商品は、似て非なるものだといえます。

数字収蔵(デジタルコレクション)とは、仮想空間上の音楽や絵画、動画、アート玩具、フィギュア等のコンテンツを指します。中国で販売されているデジタルコレクティブル(数字収蔵品)を見ると、政府が文化のデジタル化戦略を打ち出している影響もあり、博物館の収蔵品や京劇等中国の伝統文化にまつわる品々が、全体の約7割を占めています。

NFT取引における海外と中国との違いは、4つあります。1つ目は、決済通貨が人民元のみとなっていることです。NFT取引する際の決済では、ビットコインやイーサリアムといった仮想通貨を用いるのが一般的ですが、中国政府はブロックチェーン資産に対して厳しい統制を加えており、仮想通貨を禁止しています。そのため、NFTを取り扱う中国のテック大手企業の多くは、当局の規制に配慮して「NFT」ではなく「デジタルコレクティブル(数字収蔵品)」という言葉を使用し、慎重なアプローチをとっています。

2つ目は2次売買ができないことです。一般的なNFTのように世界に開放されたブロックチェーンではなく、中国政府の管理下にある外部から遮断されたブロックチェーンを利用しているため、転売による収益化は期待できません。

3つ目は、取引所に管理者が存在することです。NFT取引所を始めとするブロックチェーン関連組織の意思決定は、特定の誰かによってではなく、組織全体で行うものだという考え方が一般的ですが、中国のNFT市場では、管理者がそのブロックチェーンの廃止を決定した場合、一瞬にしてそのデジタル資産にアクセスできなくなるというリスクがあります。

4つ目は、中国のNFTマーケットプレイスでは、全ての参加者に実名での身分登録を義務付けていることです。一般的なNFT市場は、誰でも匿名で参加できるのに対して、利用の認証が必須とされていることにより、マネーロンダリングや詐欺といった犯罪防止に役立つとされています。

中国のNFT市場は規制と共存しつつ、他国とは異なる独自の成長を遂げていますが、一方で、ネットサービス大手のテンセントが、販売不振により、リリースから1年も経たないうちに、NFTを応用したデジタルアートの取引アプリ「幻核」の事業見直しに着手しています。現在、中国当局は、NFTについての規制や法整備は発表していませんが、今後、国内NFT市場が過熱し、二次流通等の違法行為が増えていくと、規制を本格的に強化する可能性もあり、市場の動向は政府の判断次第で変わっていくと考えられます。

(財新Biz&Tech等を参考に整理)