日本では梅雨明けが報じられ、いよいよ夏本番、仕事の後の一杯のビールがしみじみとおいしい季節になりました。近年、ビアガーデンや居酒屋以外に、「町中華で633を」といった声がテレビ等で聞かれるようになっています。手軽に中華料理的な小皿をつまみにアルコールを楽しみ、しめにはラーメンを食べて満足、まさに呑兵衛には心強い場所です。

「町中華」というのは明確な定義があるわけではないですが、昔から地域に根ざし愛され続ける、中華料理中心の大衆食堂や日本に来た中国人が始める中華料理店を指すのが一般的で、高級中華料理と区別されています。かつてフリーライターの北尾トロと下関マグロが2014年に「町中華探検隊」という隊を結成し、日本全国の町のラーメン屋さんを巡り、「夕陽に赤い町中華」(集英社インターナショナル、2019年6月5日)を出版しています。それらの活動が徐々に注目され始め、「町中華」という言葉がマスコミで取り上げられるようになりました。

一方、高級感のある中華料理は、店によって四川料理や広東料理のように特定の分野に特化していることが多く、広い店内にぐるぐると回る円卓があり、コース料理も用意されています。料理は本場の味というより日本風にアレンジされた料理に近いものが多く、値段も一皿何千円の単位で、フカヒレや燕の巣といった高級食材を扱い、気楽にちょっと立ち寄る、というよりは、ハレの場に利用する特別感があります。

新型コロナウイルス感染の拡大によって、多くの飲食店が休業や時短営業を余儀なくされ、売上が急減し、廃業に追い込まれる店舗も多く見られました。その一方で、コロナ禍でも客入りを保ち、生き残っている飲食店業種も多く存在し、その一つに「町中華」が挙げられます。「町中華」で提供されるメニューは店によって様々で、一般的な中華料理店で提供される麻婆豆腐やエビチリといった料理を始め、おつまみに最適な本場中国の味の小皿料理や、餃子やラーメン、チャーハン等主食類にわたるまで幅広いメニューが提供されています。

更に店によっては和食や洋食であるはずのカツ丼やカレーライスがメニューに並ぶ店もあり、専門店とは対局にあるバラエティーさがあります。また、値段も500円から1000円が中心で、毎日通っても飽きず、昼食にも夕食時にも気軽に通える町の食堂的存在です。また居酒屋としての役割も兼ね備え、お通し代もいらず、仕事終わりに気楽に一杯飲みたい人に重宝されています。

「町中華」は、何十年にも渡って親から子へ受け継がれてきた老舗店や、中国の青年が起業した個人経営の店舗が中心で、その地域に根づいている場合が多く、よって常連客も多いです。また、接客や調理方法にマニュアルがないため、店主やスタッフそれぞれの人柄が色濃く出ます。店の味は店主によって個性が出て、たとえ暖簾分けの店であっても味が異なり、接客時の形式ばらない受け答えや、個性的な店舗の雰囲気が人を惹きつける魅力となっているようです。

と同時に、老舗の家族経営ということで、店舗は自己所有の物件で家賃が発生せず、家族経営で、人件費が大幅に抑えられる場合も多いです。ただ、そんな筋肉質的な経営がゆえに、後継者がいない問題で閉店する話も耳にします。一人でも、家族でも、仲間同士でも気楽に入って、ほっと一息つける「町中華」は、日本の市民を癒してくれる、頼もしい存在として、定着化しています。

Canaeru「「町中華」から学ぶ、コロナ過でもつぶれない飲食店のヒント」を参照