中国の経済成長を支えてきた出稼ぎ労働者「農民工」。制度や産業構造の変化とともにその姿や呼び名は変わりつつあるが、労働者が直面する根本的な課題は依然として解決されていない。
都市部で働く出稼ぎ労働者といえば「農民工」が思い浮かぶが、その定義は「農村戸籍を持ちながら、都市部や地元などで半年以上非農業の労働に従事する労働者」とされる。具体的には、戸籍のある地域内で働く「本地農民工」と、地域外へ出稼ぎに出る「外出農民工」に分かれ、一般的にイメージされるのは後者である。
2025年末時点の全国の農民工総数は3億115万人に達し、微増傾向にあるものの、その内訳を見ていくと深刻な構造変化が進んでいることがわかる。特に顕著なのが高齢化で、平均年齢は43.2歳と10年で5歳近く上昇しており、50歳以上の「高齢農民工」が全体の3割以上を占めるようになった。
これまで農民工の主な受け皿となってきたのは、月収5,500元以上と他業種に比べて高収入が得られる建設業であった。しかし、長引く不動産不況によるプロジェクトの激減に加え、作業の機械化や「男性60歳・女性50歳」という現場の年齢制限が壁となり、高収入な建設現場で働ける農民工は減少の一途をたどっている。
こうした伝統的な現場に代わり、都市部で急速に存在感を増しているのが、デリバリー配達員である「外売騎手」や宅配配達員の「快逓騎手」といった職種である。コロナ禍を経てスマホでのネット通販やフードデリバリーが生活インフラとして定着した結果、2025年末には外売騎手が1,470万人、快逓騎手が5,400万人にまで膨れ上がった。これらの仕事は平均月収が8,500元前後、大都市部では1万元を超えることもあり、参入障壁が低く高収入を得られる新たな魅力的な選択肢となっている。
また、こうした配達員の増加と並行して「霊活就業人員(フレキシブルワーカー)」という概念も定着した。これは企業と雇用契約を結ばずにフリーで働く労働者を指し、現在では労働人口の3分の1にあたる2億4,000万人に達している。しかし、働き方の形態が新しくなったとはいえ、根底にある課題はかつての農民工と変わらない。雇用契約がないゆえに医療保険や社会保障、労災への加入が不十分であり、故郷に残した家族の養育や介護といった問題もそのまま引き継がれている。
もちろん、農村部での産業高度化に伴う現地雇用の増加や、省外での医療保険の適用拡大など、状況は少しずつ改善へ向かっている。しかし、「農民工」から「騎手」や「フレキシブルワーカー」へと呼び名や就労先が変わっても、社会保障の網からこぼれ落ちやすい不安定な労働環境に置かれているという根深い課題は、いまなお解決を見せていない。
労働政策研究・研修機構:農民工の建設業離れと新たな選択肢 等を参照・整理
※ミニレポートの追加記事、NOTEに掲載。https://note.com/fine_whale2904)