【中国の社会保障制度】中国の社会保障制度は「五険一金」と呼ばれ、労働者の給与額を基に定められた比率で納付されます。「五険」とは、養老保険・医療保険・失業保険・労災保険(工傷)・出産保険(生育)を指し、納付比率は地域によって若干異なります。
• 養老保険(年金):会社負担16%、個人負担8% • 医療保険:会社負担約10%、個人負担約2% • 失業保険:会社負担約1% • 労災保険:業種により0.2%~0.8%(会社負担)• 出産保険:0.8%(会社負担) 「一金」は住宅積立金であり、労働者が不動産購入時の頭金やローン返済に充てることができます。積立率は5%~12%の範囲で、会社と個人が同率で負担します。
労働者にとっては、たとえ手取りが減っても12%の積立を選べば、その分は将来の資産形成に回され、会社からも同額が加算されるため、実質的なメリットがあります。中国政府としても不動産購入の促進を図る観点から、積立率12%の採用が推奨される傾向にあります。
【負担の大きい社会保険料】会社が規定通りに社会保険料を納付すると、労働者の給与額に対して以下の負担が発生します:• 養老保険:16% • 医療保険:10% • 失業保険:1% • 労災保険:0.8% • 出産保険:0.8% • 住宅積立金:12% → 合計:40.6%
例えば、労働者の契約給与が月額10,000元の場合、会社は約4,000元を追加で負担することになります。十分な人件費予算を確保できる企業であれば問題ありませんが、経営が逼迫している企業にとっては大きな負担です。また、労働者側も、特に出稼ぎ労働者にとっては、社保料を支払っても居住地で給付を受けられるか不安があり、手取りの減少を嫌う傾向があります。
浙江省の2024年の給与統計によると、国有企業や学校・病院などの非私営企業の月平均給与は11,436元、私営企業では6,436元と大きな差があります。これは、私営企業が人件費に十分な予算を割けないことを示しており、労働者にとっても低賃金から社保料が差し引かれることは生活に直結する深刻な問題です。そのため、雇用主と労働者の間で社保料負担を回避するためのグレーな契約が行われることもありました。
【弱者は淘汰されるのか?】2025年8月、人民最高法院は社会保障制度をめぐる労働争議に関して新たな法律解釈を発表しました。それによると、「雇用主と労働者が社会保険料の納付義務や給付権利を放棄することに合意したとしても、それは無効であり、労働者は離職時に社会保険金を請求できる」とされました。これを受けて、9月1日以降、中小零細企業や個人経営者に対する社保料の徴収が徹底されることとなりました。
この方針は、労働者の社会保障を確保するという点では非常に意義深いものですが、利益率が低く、給与水準を引き上げる余力のない企業にとっては、まさに死活問題となりかねません。企業間の給与格差が問題化しつつある日本にとっても、中国当局が中小零細企業の人件費増加に対してどのような救済策を講じるかは、注目すべき動向と言えます。
JBpress :「中国経済の息の根が止まる?社会保険料の強制取り立てで中小零細は倒産ラッシュか」等を参照・整理