拡大する潜在ニーズと専門人材育成
高齢者の介護や子どもの教育・保護、医療・保健サービスなど、きめ細かな支援が必要とされる現場において、ソーシャルワークの理念が重要視されています。日本では1987年に社会福祉士の国家資格制度が発足し、広く定着してきました。一方、中国でも2006年に「社会工作師(ソーシャルワーカー)」の資格制度が創設され、職業としての歩みを本格化させました。「助人自助(自立支援)」の理念に基づき、対象者が抱える日常生活上の問題やニーズに対し、自力で解決する能力(エンパワーメント)を高めるサポートを目標としています。しかし、中国におけるソーシャルワークは依然として多くの課題に直面しています。
第1に社会的認知度の低さ。一般市民や行政現場において、ボランティアやコミュニティ(社区)のスタッフ、あるいは民政部門の単純な代行者と混同されることが多く、専門職としての尊厳や評価が十分に確立されていません。
第2に伝統的な意識と援助要請の壁。困りごとが生じた際に「まずは家族や子どもに頼るべきであり、外部に相談するのは恥かしい」という意識が根強く存在します。これによりソーシャルワークの利用自体がためらわれる一方で、一度関係が構築されるとソーシャルワーカーを「身内」のように捉えて過度に依存してしまうという両極端な問題が生じています。
第3に人材の質の偏りと環境の脆弱さ。現場の実務者レベル(初級・中級)は増加しているものの、高度な判断や指導を行える上級ソーシャルワーカーは依然として少数、在職者研修も断片的、医療、司法、薬物依存・リハビリ、精神保健といった専門分野でのスキル不足が指摘されています。
第4に処遇面と組織基盤の課題。多くのソーシャルワーク機関(NGO/NPO)は小規模で、政府の委託事業に頼る事業形態のため財務基盤が不安定です。従事者の給与水準も月額3,000?5,000元程度にとどまるケースが多く、労働条件の厳しさから離職率の高さが定着の妨げとなっています。
少子高齢化の急進や障がい者の社会参加、メンタルヘルス支援など、ソーシャルワークへの潜在的ニーズが急増しているにもかかわらず、供給体制や制度環境が追いついていないのが実情でした。こうした状況を打開するため、中国政府(中弁・国弁)は「ソーシャルワーク専門人材チームの建設強化に関する意見」を打ち出しました。今後数年間でソーシャルワーク人材の構造を合理化し、職業化・専門化レベルの向上、上級人材の拡充、および全体の規模拡大を目指す目標が設定されています。具体的には、全プロセスにわたり以下の柱を軸とした体系的施策が推進されます。
1.育成の加速:高等教育での専門コース拡充と体系的な継続教育の構築。
2.活用の強化:コミュニティ、福祉施設、病院、学校、司法機関など多様な分野での配置拡大。
3.評価制度の改善:専門能力と実績に応じた資格・評価体系の整備。
4.インセンティブの最適化:適正な給与保障とキャリアパスの明示による定着促進。
5.組織・実施体制の強化:財政支援の拡充と組織運営の安定化。
なお、本取り組みの基盤には「新時代の中国特色社会主義思想」による理念の統一と、中華伝統文化の優れた要素の継承が掲げられています。党および政府の指導のもと、中国の国情や文化背景に即した「中国式ソーシャルワーク」のモデル構築が進められており、数年後には専門職として確固たる市民権を得ていくことが期待されます。
中国通信:「ソーシャルワーク専門人材育成に関する意見/中弁・国弁」等参照・整理等を参照整理
※ミニレポートの追加記事、NOTEに掲載。https://note.com/fine_whale2904)