中国の若者を中心に広がる『谷子経済』は、キャラクターIPを核とした新しい消費文化として急速に存在感を高めている。その象徴的な事例が、香港アーティスト・龍家昇(Kasing Lung)が生み出したキャラクター「LABUBU」である。うさぎのような耳とギザギザの歯を特徴とするこのキャラクターは、中国のデザイナーズトイブランドPOP MARTの代表作として世界的な人気を獲得した。SNSでの拡散を契機に東南アジア、とりわけタイでブームとなり、タイと中国の外交50周年を記念した限定モデルが発売されるなど、国際的なIPへと成長している。サッカーワールドカップとのコラボ商品も展開され、「LABUBU」は中国発IPの象徴的存在となった。POP MARTは2010年に北京で創業し、アート性の高いフィギュアを中身の見えない箱に封入した「盲盒(ブラインドボックス)」を主力商品として急成長した。日本のガチャガチャと似た仕組みだが、ターゲットは子どもではなく、若年層や成人のコレクターである点が大きく異なる。ストレス社会の中で「小さなご褒美」や「癒し」を求める若者の心理に合致し、盲盒(ブラインドボックス)は中国の潮玩(トレンド玩具)市場を牽引する存在となった。

 この潮流を支える基盤が『谷子経済』である。「谷子(グーズ)」という言葉は英語の“goods”に由来し、漫画・アニメ・ゲーム・小説・アイドルなどのキャラクターIP商品を指す。経済成長の鈍化や競争圧力の高まりといった社会背景の中で、若者の価値観は「物質的豊かさ」より「心の豊かさ」へと比重が移り、低価格で満足感を得られるキャラクター商品への支出が増加した。こうした心理的ニーズが谷子消費を押し上げ、市場は急速に拡大している。谷子経済の形成に大きく寄与しているのが「同人」と呼ばれるコアファンコミュニティーである。この言葉はもともと日本で文芸家の仲間を指す語として使われていたが、中国でも2000年代後半から同じ意味で普及した。同人たちは好きなキャラクターについて積極的にイベントを開催し、SNSで情報を拡散することでライト層を巻き込み、市場の熱量を維持している。中国最大級の同人イベント「COMICUP」は来場者数が20万人規模に達し、『谷子経済』の社会的広がりを象徴している。

 谷子市場では、中国産IPグッズが「国谷」、日本産IPグッズが「日谷」と呼ばれる。LABUBUのような国谷の勢いが増す一方で、日本IPの存在感は依然として大きい。上海や北京ではBANDAI SPIRITSやアニメイトなど日本企業の直営店が増加し、正規ライセンスを受けた中国系小売店も日本IP商品を積極的に展開している。日本IPを扱うイベントも頻繁に開催され、日谷は谷子経済の成長を支える重要な柱となっている。市場規模は2024年に1,689億元へ拡大し、今年には2,200億元、2029年には3,000億元を超えると予測されている。国谷の台頭が著しい中で、日谷が今後も成長を続けられるかが注目される。日本IPは長年のファン層と強固なコミュニティーを持ち、世界観の深さやブランド力に強みがあるため、市場全体の拡大とともに国谷と並走しながら成長する余地は十分にある。ただし、中国産IPの急成長や政治的要因によるコンテンツ規制など、外部環境の変化への対応が求められる。

 総じて、『谷子経済』は、中国の若者文化と消費行動の変化を映し出す新たな経済領域であり、国谷と日谷が共存しながら拡大するダイナミックな市場として今後も注目される。

JETRO:同人コミュニティーが支える中国『谷子経済』はホンモノか? 等を参照・整理

※ミニレポートの追加記事、NOTEに掲載。https://note.com/fine_whale2904