日本で始まった「一村一品」運動は、スローガンを重視する傾向のある中国にあって、国情に合った形で受容され、独自に進化・発展しています。
[一村一品運動とは]
地方発信の「地域ブランディング」は、現在では地域振興やツーリズムといった概念と一体化し、定着した戦略となっています。その原型とも言えるのが、1960年代から1970年代にかけて日本の大分県で始まった「一村一品」運動です。農業生産等の一次産業だけでは貧困から脱却できないという課題に対して、大分県内の複数地域の住民が立ち上がり、各村の特産品を加工・販売することで、農産物に付加価値と差別化を加え、PRと販路拡大を図る取り組みが始まりました。この動きを当時の大分県知事・平松守彦氏が「一村一品運動」と名付けて県内で展開し、やがて日本各地に広がっていきました。
[中国での導入]
1983年、平松守彦氏が上海に招かれて講演を行い、中国に「一村一品」の概念が紹介されました。当時の中国は改革開放の初期段階であり、人民公社による集団生産から生産請負制への移行が進み、農村の生産力が問われる時期でした。特に沿海部では専門的な生産への模索が進んでおり、「一村一品」の考え方は、農業に限らず特化型産業への取り組みによって農村の生産力を高める戦略として受け入れられました。代表的な事例として挙げられるのが、浙江省温州市柳市鎮の「電器村」です。1990年に設立された柳市電器城は、低圧電気関連企業の取引拠点として機能し、農村地域の中小企業が集積・特化することで、現在でも大きな市場シェアを誇っています。
[展開する一村一品]
中国における「一村一品」は政府の農村地域の貧困脱却政策とも連動し、幅広い解釈と多様な方向性で展開されています。現在、全国の「一村一品」モデル村は4,000以上に達し、各村で平均300人の雇用を創出しています。事例は大きく以下の3パターンに分類されます。
1. 特色ある農産物の生産と加工
例:貴州省麻江藍苺村では、ブルーベリーからアントシアニンを抽出する技術を開発し、健康食品として生産・海外輸出を行っています。
2. 農村ツーリズムとブランド創造
例:福建省寿寧県では、烏龍茶の生産を基盤に「寿寧一?菜」を打ち出し、茶懐石、茶摘み体験、茶畑観光等を組み合わせたツーリズム商品を展開しています。
3. 科学技術とグリーン化の融合
例:江蘇省興化では、蟹の養殖に水質管理システムを導入し、水質改善とともに蟹の生存率や品質向上を図る取り組みが進められています。
[浙江省の事例]
浙江省でも「一村一品」プロジェクトは多数展開されており、代表的な事例として挙げた浙江省温州市柳市鎮の「電器村」以外にも、例えば温州市泰順県羅陽鎮下稔陽村では、2019年に地元企業と連携して食用菊「金糸皇菊」の栽培を開始しました。企業が苗や技術を提供し、販売を担う一方で、村民が菊の栽培と製品化を担当することで、雇用と安定収入の創出につながりました。更に、菊の満開時期には花見観光客が訪れるようになり、村の民族文化と結びつけたツーリズム商品として展開され、村全体の収入増加に寄与しています。
※国家治理 郷村全面新興背景下“一村一品”転型路径探析 等を参照・整理