中国における日本語教育の歴史と現状                                    

 世界の大学における日本語学習者のうち、中国の大学の学習者が約60%を占め、世界最多であり、そのため中国国内で日本語専攻を開設している大学は決して少なくない。北京大学は今年で学科開設80周年を迎え、中国で最も早く日本語専攻を開設した歴史を持っている。北京外国語大学も1956年の創設以来、日本の大学と積極的に交流を重ねてきた。2019年のデータによれば、学部生向けに外国語専攻を開設している大学は750校あり、そのうち、日本語専攻を持つ大学は406校にのぼる。しかし、現在、中国の大学の外国語専攻は大きな転換期を迎えている。

語学専攻の縮小と「就職率の低下」                                       

 近年、中国では外国語専攻全体が廃止・縮小される傾向にあり、日本語専攻の縮小・廃止も進んでいる。北京大学や青島大学などでは翻訳・日本文学系の修士課程で募集人数が縮小されたほか、北京語言大学では「日本語翻訳」を含む7専攻の修士課程の受け入れを停止するなど、専攻の存続自体が危ぶまれる事態も起きている。こうした語学専攻縮小の最大の理由は、言うまでもなく「就職率の低下」である。2024年の就職率を専攻別で見ると、日本語専攻の就職率は82.3%(47位)、英語専攻でも83.2%(45位)にとどまり、語学を専攻する学生の数に対して、受け皿となる就職先が足りていないのが現状である。

「国・地域別研究」へのシフトと新たなニーズ                                 

 一方で、あえて日本語専攻を新設する大学もある。その背景にあるのが「国・地域別研究(国別・区域研究)」への関心の高まりである。この研究は、特定の国や地域の国際関係、世界経済、人文学、地理学、政治学、社会学などを包括的に学ぶ専門分野で、2022年に中国教育部がレベル1(一次学科)の専門分野として新設した。従来の外国語専攻における「言語翻訳」や「文学研究」に留まらず、国際的視野を持った複合型人材を育成することを目的としている。

浙江省における大胆な大学改革                                          

 浙江省では、中国全土に先駆けて2019年から外国語学部の「廃止・停止・統合・変更」の改革が始まった。国の「新文科建設」政策や、文系と理系の融合を重視する浙江省の産業構造に合わせ、「統合・改組」を中心とした変革が進められ、大学の特色に合わせて以下のように差別化された日本語教育が展開されている。総合大学(浙江大学、寧波大学など):「国・地域別研究」の一環として改組。外国語専門大学(浙江越秀外国語学院など):通訳やビジネス日本語をメインに、地元の日本関連企業との連携を強化。

AI時代における「日本語教育」の未来

 生成AIが普及し、自動翻訳機能が飛躍的に向上する中、単なる言語の知識は以前ほど重要視されなくなってきた。今求められているのは、日本の経済・社会・文化を総合的に理解したコミュニケーション能力や、日系企業の実態を踏まえたビジネス・マーケティング能力の育成である。中国の大学における日本語専攻は、単に「日本の言語を学ぶ」ことから、「日本語を通じて日本を包括的に学び、将来に役立てる」教育へと、いま大きなシフトを遂げている。 

 

(※早稲田日本語教育学第38号「中国の大学における日本語教育と国・地域別研究の統合」等を参照・整理) ※ミニレポートの追加記事、NOTEに掲載。https://note.com/fine_whale2904