コロナ禍で冷え込んだ中国の各業界も次第に回復していますが、デパート業界はそうでもないようです。三越伊勢丹ホールディングスの発表によると、「天津伊勢丹」と「天津海浜新区伊勢丹」の2店舗を2024年2月末に閉店したのに引き続き、6月末で今度は上海市にある「上海梅龍鎮伊勢丹」も閉店することになりました。「店舗ビルの賃貸契約期間と合弁契約が満了になることから」との理由ですが、2023年1~9月期の営業損益は3億7600万円の赤字、と経営状況は決して芳しくなかったようです。

上海のデパートを振り返ってみますと、元々国営だったデパートは1980年代前半から「経営請負責任制」を採用しています。これは、企業が政府と請負契約を結び、一定期間に規定の利潤を納め、それを超える利益の分配は請負責任者に任せる、というもので、経営・価格・賃金・雇用が自由化され、品揃えの拡大、新商品の導入が促進されました。ショッピング環境の整備も進められ、1987年には「上海市第十百貨商店」がエスカレーターとエアコンを導入、1990年代初頭には輸入化粧品販売を拡張のため、ブランドごとの売場「箱売場」を設置、多様性を求める消費者のニーズを満たす場所となっていきました。

1992年には外資企業・日本の「ヤオハン」が現地の「第一百貨商店」と合弁で「上海第一八佰伴有限公司」を設立、1995年「新世紀商厦」の営業を開始します。その他に香港系の「東方商厦」や台湾系の「太平洋百貨」等、外資系が次々と上海へ進出、デパートは海外ブランドをはじめとする高額商品を扱う場所となります。2000年代に入ると、地元の国有デパートの統合や外資流入が進み、戦略的にウィンドウ陳列や販促活動を行うマーチャンダイジングの手法も普及します。デパートは日常とは少し異なる高級で特別な空間として存在してきました。

上海梅龍鎮伊勢丹は1997年に開業以来、日本をはじめとして海外の高級ブランドを扱ってきました。閉店を聞いた上海市民も驚いているようですが、上海市のある女性は、以前伊勢丹の近くで勤務していた時、伊勢丹でランチをした後店内を歩いて新しい化粧品やファッションを見るのが楽しみだった。閉店を聞き7、8年ぶりに来てみると、若年層は知らないブランドばかり、レストランは各階の端の不便な場所にあり、ほとんど人がいない、地下1階の食品売場が唯一多少賑やかだが、「前世紀に戻ったかのようね」と話しています。伊勢丹ばかりではなく太平洋百貨も上海店舗が次々と閉店、上海第六百貨も改築のため営業停止しています。

伝統的なデパートの不振と対称的に、ネット販売の普及と共に、大型ショッピングモールが急速に発展しています。3万㎡以上の大型ショッピングモールは、2023年末、店舗数381店にのぼり、2024年にはリニューアルを含め52店が新規開店予定となっています。これらは買い物だけではなく、グルメ、スポーツ、文化、教育等、多種多様なサービスを提供しています。また、コンサートや舞台劇を開催したり、子供を連れた家庭が買い物を楽しめるように遊び場と売り場を一体化させたり、「2次元」をテーマとした売り場を設けたり、各店舗それぞれの新たな工夫により消費者のニーズに応えようとしています。

過去のデパートは常に新しい商品や概念を取り入れ、消費者を楽しませてきました。そしてそれはいつの間にか「伝統的」になり、今度は大型ショッピングモールが新しくて特色のあるサービスで今の消費者を楽しませています。

アジア経済研究「中国におけるデパート業態の変容」等を参照・整理