広大な中国では、恐竜の活動跡が存在することは想像易く、様々な発見が相次ぎ、まさに世界一の『恐竜大国』と言えるでしょう。近年では、雲南省禄豊市恐竜山鎮梨園村で、地元住民2名が羊を連れて山に登った折に、前期白亜紀の恐竜の足跡化石を多数発見しました。恐竜の足跡がある岩石層の地層年齢は1億2000万年前を超えているとのことですが、足跡の形ははっきりしていて、保存状態がとても良いものでした。その後も研究者たちにより400以上にもなる足跡の化石が発見されました。

 雲南省禄豊市は、古くから恐竜の化石が見つかっている場所です。「中国龍(チャイナドラゴン)」とも呼ばれ、中国で出土された恐竜の代表格であるシノサウルスもここで発見されました。 シノサウルスはジュラ紀前期に生息した獣脚類で、体長は推定5.6mで、発見のきっかけは中国恐竜学の大家である楊鍾健氏により、1938年に日中戦争から逃れておこなっていた発掘プロジェクトで、4本の歯を持つ上顎が見つかったことです。その後、日中戦争や国共内戦の影響で研究が遅れ、1948年にその存在に関する論文が発表されました。

 中国で見つかった恐竜には、名前に「Sino」(中華、中国)を冠していることが多いです。例えば遼寧省で発見されたシノサウロプテリクス(中華龍鳥)・シノルニトサウルス(中華鳥龍)・シノカリオプテリクス(中華麗羽龍)、内モンゴル自治区で発見されたシノルニトイデス(中国鳥脚龍)・シノルニトミムス(中国似鳥龍)、新疆ウイグル自治区で発見されたシンラプトル(中華盜龍)、山東省で発見されたシノケラトプス(中国角龍)等です。これらの化石は1990年末から発見されたもので、愛国主義イデオロギーの強さもにじみ出ています。

 また、遼寧省北票市陸家屯にある義県層で発見されたディロング・パラドクスス(奇異帝龍)は、シノサウロプテリクスと並ぶ「メジャー選手」になりつつあります。体長は1.6メートルほどの小さな獣脚類です。そして同じ遼寧省では2012年に体長9メートルのユウティラヌス・フアリ(華麗羽暴龍)が報告され、ティラノサウルスの仲間の多くが羽毛に覆われていた可能性も浮上しました。これらの恐竜の名称を見てみると、自国内で発見された恐竜に「○○サウルス」「○○ニクス」といったラテン語由来の名前ではなく、中国語のアルファベット表記であるピンインのスペルをそのまま学名にしています。

 同じように、ピンインからの学名で、ズオロン・サレーイ(薩利氏左龍)という恐竜がいます。復元図では鳥に近い外見で描かれることが多いです。ズオロンの化石は2001年、新疆ウイグル自治区の石樹溝層で発見されました。体長は推定3.1メートルの若い個体でした。ズオロンが論文として報告されたのは2010年、「ズオロン」の由来は、清朝末期の重臣・左宗棠(Zuo Zongtang)にちなみますが、この命名は中国としては珍しいとされます。

 恐竜の学名が学者や発掘関係者、前近代の偉人以外の特定の人名にちなんで命名されることは少なく、特に、近現代史上の人物は、その評価に中国共産党のその時期の価値判断が強く反映されるため、不用意に名前を使うとリスクが大きくなります。ただ、左宗棠の場合は、滅亡寸前だった清朝の立て直しを図った国家の大黒柱として評判がいい人物であると同時に、19世紀に新疆の反乱を平定した功績もあります。もしかしたらズオロンの命名には、北京の政権による新疆支配の歴史を肯定する意味合いもあるかもしれません。恐竜の名前のひとつにも、それぞれのお国柄や背景を醸しています。

  JBpress「恐竜にも及ぶ共産党の政治的特殊事情」等を参照・整理